『彼女がいた時間』 モデル・じきまる。を迎えた、二冊目の写真集。 舞台となったのは、1950〜60年代の暮らしを思わせる洋風民家。使い込まれた家具、柱時計、古い映写機やレコードプレーヤー、静かに光を返す窓ガラス。そこには、誰かが確かに暮らしていた記憶と、ゆっくりと積み重なった時間が残されていました。 朝の光が差し込む台所。窓辺で過ごすひととき。椅子に腰掛け、遠くを見つめる横顔。ベッドの上でまどろみ、古い本のページをめくる指先。彼女は何かを待っているのか、それとも、過ぎ去った誰かを思い出しているのか――。 本作では、モデルを美しく写すことだけを目的とせず、建物に刻まれた記憶や、部屋を満たす空気、光と影、静物の気配を重ねながら、一人の女性が過ごした“ある時間”を描きました。 カラー写真の柔らかな温度と、モノクロームがもたらす時代を超えた感触。人物の表情だけでなく、古い時計や手紙、レコード、家具、夏の庭といった断片を織り交ぜることで、写真と写真の間にある物語を想像できる構成にしています。 やがて彼女は閉ざされた室内を離れ、眩しい光の中へ。風に揺れるドレス、水面に反射する陽光、濡れた髪と素肌。静寂に包まれていた時間は少しずつほどけ、物語は開放感に満ちた夏の午後へと移っていきます。 ここに収められているのは、明確な筋書きを持つ物語ではありません。見る人それぞれの記憶や経験によって、その意味を変えていく写真の連なりです。 彼女は、なぜこの家にいたのか。 懐かしいのに、実際には経験したことのない時間。 『彼女のいた時間』は、じきまる。の新たな表情と、1950〜60年代へのオマージュを通して、現実と記憶の境界にある美しさを写し取った、物語性のあるアートポートレート写真集です。 モデル:じきまる。
誰を思い、何を待っていたのか。
そして、どこへ向かおうとしているのか。
忘れていた記憶のように、心の奥に静かに残る一冊。
写真:三つ目 総真
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